一粒の稲 第2話「稲刈り後にすること」

稲刈りツアーはお客さんに鎌を持っていただき手で稲を一束ずつ刈り取っていただきます。

ツアーのお客さんは9割方がご家族連れ。お子さんに手で稲刈り体験をさせたくて参加される方がほとんどです。

参加者の皆さんには午前11時から12時までの約1時間、田んぼで稲刈りをしていただきます。

12時から13時が昼食。

午後は何をするかというとその年によってまちまちなのですが、一時期はアルプスの少女よろしく「わらのベッド」を作って遊びましたし、昔ながらの「はさかけ」まで体験していただく年もありました。

 

稲刈りの後にすること

コンバインが普及する前の稲刈りは当然全てが手作業です。

田んぼの稲を全部手で刈った後は「はさかけ」を行います。

はさかけとは刈った稲を天日で乾かす作業。

1ヶ月ほど稲を天日干しするのですが、当然雨が降る日もありますので、雨が降ってくると干してある稲を屋内に移動させる必要があります。

 

乾燥が終われば次は「脱穀」と「籾すり」です。

脱穀は稲わらと「籾(もみ)」を分離させる作業。稲こきとも言います。千歯扱きや唐箕(とうみ)という道具を使って脱穀をします。

脱穀の次が籾すりです。籾すりは籾から籾殻を取り除き「玄米」を作る作業です。

稲刈りで収穫する物が「稲」

乾燥させた稲を脱穀して取れる物が「籾」

籾を臼などで籾すりして取れる物が「玄米」です。

 

機械が普及した今日ではコンバインが稲刈りと脱穀を同時にやってくれます。

だから私たちは籾をコンバインからトラックに積み替えます。

ただし籾はまだ乾燥していないので、次は倉庫に移動して乾燥機の中に籾を入れます。私がお世話になった農家さんは確か24時間で乾燥が終わるとおっしゃっていました。

倉庫の乾燥機の横には籾すり機も隣接しており、稲刈り翌日には乾燥と籾すりが終了し、見事「玄米」の完成です。

玄米は30kgずつ紙袋に分けて保存します。昔は七福神が抱えているあの「米俵」で保存していました。

ちなみに米俵一俵は約60kg。一石は150kg。加賀百万石は15万トンです。

 

稲刈り後に見たもの

稲刈りツアーは「稲刈り」までで終了します。乾燥→脱穀→籾すりは翌日の作業となるからです。

ご希望のお客様には精米した新米を後日郵送します。お米代は別料金です。

お昼ご飯の時間になるとお客さんを農家民宿にご案内して、その後私は農家の皆さんと一緒に後片付けを手伝います。

この時に見た光景が私にとって一生忘れられないものとなりました。

 

農家のおじさんが稲刈りの終わった後の田んぼをうつむきながらゆっくりゆっくり歩いているのです。

私がお客さんの落とし物でも探しているのかな?と思って声をかけると、農家の方は当然のように

「米粒を拾っているんだよ」

とおっしゃいました。

コンバインで稲刈りをした後の広い田んぼで、刈り残した稲粒を拾って歩いておられたのです。

私も日頃お茶碗のご飯を一粒も残さないように食べてきました。しかし田んぼに落ちてる米粒を拾って歩くという発想は全くありませんでした。

 

私は農家の方の迫力に圧倒され、言葉もありませんでした。

この方が特別なのではなく、おそらく日本全国の農家の方はみな当たり前のように無意識に米粒を拾って歩いておられることと推察します。

ここでフランス画家のミレーの代表作「落ち穂拾い」を思い出してください。

あの絵にも麦粒を一粒一粒拾って歩く農婦の姿が描かれています。

ミレーの絵は「貧しくてもたくましく生きる農婦の尊厳を描いた」と言われていますが、日本の農家さんの場合はミレーの絵とちょっと意味合いが違うと思います。

つづく

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